「グレシャムの法則」は私たちのビジネスに関係しているかも知れません。今回はこの法則を解説していきましょう。
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グレシャムの法則とは
16世紀のイギリスの財政家グレシャムが提唱した言葉であり、現在では経済学の法則の1つとして知られています。貨幣の額面価値と実質価値に乖離が生じた場合、実質価値の高い貨幣が駆逐され、実質価値の低い貨幣が市場に流通してしまう現象を指します。
ややこしいので一言で表わすと
「悪貨は良貨を駆逐する」
と要約されます
悪貨は良貨を駆逐する実例
~江戸時代・元禄小判のお話~
江戸時代に流通していたお金は、一分金や銀・銅でも造られており、中でも慶長小判と呼ばれる小判は1両(1枚)でもとても貴重な、価値のあるものでした。時の幕府は貨幣の価値を定め、多くの江戸市民が貨幣の価値を理解するようになります。
元禄8年頃の幕府は経済発展に伴う貨幣数の増大や、貿易による金・銀の海外流失により財政が苦しくなっていきます。そこで、幕府はとっておきのアイディアをひらめきます!
「小判1枚あたりの金の分量を減らせば、金の量を節約しつつ、より多くの小判が作れるのではないか!」
このアイディアのもと、実際に流通したのが元禄小判でした
元禄小判は小判1枚あたり3割ほど金を減らすことに成功し、幕府は多くの元禄小判を鋳造することが出来ました。しかし、金の使用料を節約しているため、見た目も白っぽくポッキリ折れてしまったりと元禄小判の出来は悪く、見るからにチープな印象になってしまいました。
悪貨は良貨を駆逐するとは?
当時の江戸市民は、そのチープな元禄小判は金の使用料が減っていることに気が付きます。江戸市民は同じ1両でも、金の含有量が多い慶長小判を使用せずに貯め込むようにして、市場には新しい小判元禄小判しか流通しなくなるようになりました。
財政の苦しい幕府としては、市場に金の含有量の多い慶長小判を回収し、元禄小判の原資としたいところですが、全くもって回収量が増えません。そこで幕府は慶長小判1000枚と元禄小判1200枚を交換すると言い出します。
これは儲けた!と多くの民は交換を始めるようになりますが、やがて市場に大混乱が起きます。
今まで買えていた物が同じ枚数で買えなくなるのです
幕府が慶長小判1000枚と元禄小判1200枚を交換しているので、市場に小判が多くなります。その結果、同じ物を買うにも今まで以上にお金が必要になったのです。幕府の財政を改善しようと行った結果・物価が急上昇した悪政として、良く取り上げられています。
商人としては同じ1両でも金の含有量が多い、慶長小判の方が嬉しいですもんね。不用意に、市場へ価値の低い貨幣が流通した結果、物の価値が上がってしまったのです。
会社組織におけるグレシャムの法則と悪影響
現代の会社組織におけるグレシャムの法則とは何か?経営戦略・組織構造に良く用いられます。
会社は様々な役職等により階層が分けられており、会社を経営する上部組織(部門)と実際に実行する下部組織(部門)に分かれています。会社は各組織それぞれの役割と仕事があり、いわば分業化されていると言えます。
経営者は業務意思決定や管理意思決定から解放され、戦略意思決定に専念する必要があります。
大会社の社長が末端の営業先1つ1つ回っていたり、カスタマーセンターの電話を毎回取っていたりすると、いつ自分の仕事をする暇があるのでしょか?
日々の細かな仕事に忙殺されて本来の戦略意思決定がおろそかになってしまうと、経営判断を誤ってしまうことになり、それこそ社員一同を路頭に迷わせる結果になってしまうことも少なくありません。
つまり
「ルーチンは創造性を駆逐する」
と言うことです
権限委譲の原則とも言われるこの考え方は、会社にはそれぞれのポジションの仕事があるので、自分自身のお仕事に専念しましょうという考え方です。そのために日頃からきちんとした組織形態づくりを心がけなければいけません。
組織には上級管理職と中間管理職があります。組織があらかじめ幹部候補や管理職を募集するのはこのためです。現場から上級管理職になる事はまれです。できる人材には初めから目星をつけておき、法則に当てはめないためにも運営・経営の方へ回します。現場と経営は全くの別スキルなのです。
そのほかの組織におけるグレシャムの法則例
組織におけるグレシャムの法則はルーチンワークだけではありません。組織内で行われる行動が組織の文化や価値観に影響を与えるため、悪徳行為が蔓延すればするほど、良心的な行為や価値観は排除されていくことになります。
恐ろしいのは、悪徳行動が蔓延すると、それ等の行為が当たり前になってしまう事です。良心的な行動や価値観が異端視され、排除されてしまい、結果的に組織に大きなマイナスになります。
ルーチンは創造性を駆逐する・中間管理職の実例
とある中小企業に勤める社畜モンキさんは中間管理職としてのベテランです。ある年、部門異動を上司より言いつけられました。しかし慢性的な人不足の中小企業では、部門異動した先にも以前の仕事はそのままこなすよう指示が出ています。
社畜モンキさんは勤務時間の8時間、前場での発送業務や商品の荷受け、伝票出しに負われるようになります。本来の販促計画や市場調査などは自宅で残業するようになりその結果、仕事の質(数字)を大きく落としてしまうようになりました。
上司は簡単に言います「出来るやん」と・・・異動後にも仕事がくっついてくるのは中小企業あるあるですかね。
グレシャムの法則の対策法
グレシャムの法則への対策法として、
- 組織図を明確にした分業体制を仕事の見える化を図る
- 組織内のルーティン化を防ぐために、新しい取り組みやプロジェクトを定期的に行う。
- チームや部署内でのコミュニケーションを活発化させ、異なる視点や意見を共有することで、新たなアイデアの生み出しを促す。
- アイデア募集の場を設けたり、表彰制度を設けたりすることで、従業員の創造性やアイデアを評価する仕組みを作る。
- 従業員のトレーニングや教育を定期的に実施し、スキルや知識の向上を促すことで、ルーティンに陥らない柔軟性のある思考力を養う。
- 従業員が自由にアイデアを発信しやすい環境を作ることで、従業員が積極的にアイデアを提案するよう促す。
- 悪徳行為に対しては厳正に処分し、そのような行為が許容されないことを明確にすることで、ルーティン化された悪徳行為を防ぐ。
グレシャムの法則は、ある種の組織硬直化が、原因の1つでもあります。現場や組織の意見交換や情報の活性化を行うだけでも、グレシャムの法則への対策といえるでしょう。
優秀な人間が辞めていくのはグレシャムの法則に当てはまる!?
その会社組織において、日々のルーティン仕事に追われる事が多くなれば、必然として仕事への不満が高まります。特にルーティンが自身にとって優先度合いの高いものでなければ、キャリアアンカーとのミスマッチもあいまって退職する事になるでしょう。
ルーティン化された日常業務は創造的な思考を必要とする事も少なく、過去についての思考も奪うと言われています。硬直化された組織内では官僚制の逆機能が働いていることも少なくなく、自由性や裁量を求めることを欲している人材にとって窮屈他なりません。
日本の組織はかねてより年功序列・終身雇用が採用されています。一旦入社すればいくら無能な者でも簡単にクビにする事は出来ません。パフォーマンスが低いそれら者が本来処理しなければならない業務を優秀な人材に振り分けることも少なくなく、結果として組織としての生産性が滞ることとなります。
加えて業務量の負担を考えると優秀な人材に負担がかかる事も多くなり、ピーターの法則とも呼ばれている、「無能な人が出世する」要因にもなり得ます。
一言で言うとやってらんねんえよ!って事でしょうかね。無能な上司の下で働けるか!と思う事もあるかも知れませんが、気がつけば自身がその立場になり得ます。
裁量を求める優秀な人材を留めるためには、組織の柔軟化や新たなプロジェクト発足など新たなイノベーションを意識した組織形態の構築を考えなければいけません。
ピーターの法則とは?
時が経つにつれて人間はみな出世していき、能力主義の階層社会では人間は能力の極限まで出世する。したがって、有能な平構成員は無能な中間管理職になり、その結果、各階層は無能な人間で埋め尽くされる。
能力の極限まで出世するならば、上級職まで出世する無能な人は無能で出世する才能があると言うことですね。有能な人でも出世した途端、能力の限界により無能な人になる事でも用いられています。組織運営は、まだ限界に達していない人材の力でまかなわれるとも言われています。
優秀な選手が優秀な監督では無い
往年のスタープレーヤーが現役を引退し、監督になっても好成績を収めるとは限りません。選手時代のスキルと監督業のスキルに必要なことは別物であることが多く、チームを管理する事が問われます。選手時代は1つでも得点を得ることが必要とされるのに対し、監督は1つでも多くチームに勝利をもたらすことが必要とされます。選手時代にキャプテンで名を馳せた選手であってもただの中間管理職であることに変わりは無いのです。
ピータの法則がもたらす人材の流出
上級職が無能な人で埋め尽くされた組織は、成長過程にある人材の能力を蝕んでいるとも言えます。優秀・有能であるが故に別部門・別部署の仕事も有能であるだろうと判断しがちです。その結果、本来希望している職務とはかけ離れたことを行う事により、フラストレーションやストレスが溜まり、前出のキャリアアンカーとのミスマッチが起こる要因にもなります。その結果、優秀な人材が抜けていき組織は無能化するのです。
人が能力の限界まで出世すると言うのであれば、自身の能力が活躍できる場所を求めて転職することも法則にかなったことです。できる人材であれば組織側は面談を重ねて、その能力を十分に活用出来る場を与える事も考慮しなければいけません。
まとめ
グレシャムの法則に陥ってないかと考えるのは難しいかも知れませんが、従業員のみなさまや部下が楽しそうに仕事をしているかと察してみてもよいかもしれません。部下のやる気を引き出すこと、新たな挑戦をする事は決して悪いことでは無く、情熱に応えてくれる組織作りがイノベーションの源泉であるとも言えます。
強い組織は強い結果を生み出すもの、働いている方が輝いている組織を作っていきたいですね。
それではみなさま良い社畜ライフを!